【vol.2(JMS前編)】クルマだけの祭典じゃない!ジャパンモビリティショーに懸ける自動車業界の想い モビリティDXで「自動車の価値は移動に限らない時代へ」

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2025.12.16
国内最大の自動車を中心としたモビリティ(移動手段)の総合展示会「ジャパンモビリティショー(JMS)2025」(主催・日本自動車工業会)が10月30日から11月9日までの11日間、東京都のベイエリアにある「東京ビッグサイト」で開催された。前身は「東京モーターショー(TMS)」で、ITをはじめとする先端技術を総動員するモビリティの登場を踏まえ、前回の2023年から自動車業界の枠組みを超えた企業も参加するイベントに生まれ変わった。自動車メーカー(OEM)中心だったモーターショー時代のようなコンセプトカーや新型車のお披露目の場であることは変わらないものの、「100年に1度の変革期」に対応しようとする自動車業界の将来に向けた在り方を模索する試みも色濃く示されている。

「100年に1度の変革期」 SDVも新たな軸に

今回のJMSは「ワクワクする未来を、探しに行こう!」をコンセプトに掲げた。自動車だけでなく、IT企業をはじめとした他業種、そして一般の来場者が共にモビリティの在り方を考え、未来を共創するという意味が込められている。参加企業が522社と過去最多となり、来場者は101万人とJMS初回である前回の111万人に迫った。

「自動車は100年に1度の変革期を迎えている」。この言葉がマスメディアで登場したのは自動車業界でEV導入の本格的な兆しが見えた20年近く前になる。トヨタ自動車の豊田章男会長は社長時代の2017年ぐらいから、繰り返しこう述べて危機感を示し続けた。そこからも10年近くたつ。

ただ、その間に内容は大きく変わった。EVの販売台数が主要市場で頭打ちになっているものの、今はAIをはじめとするデジタルと自動車の融合が注目されている。自動運転やユーザーのニーズに応じて機能をアップデートする「SDV(Software Defined Vehicle、ソフトウェアで定義される車)」だ。自動車業界だけでは対応できない領域であり、多様な選択肢を得たユーザーのニーズの把握と、ITをはじめとする異業種との連携が欠かせない時代になった。日本自動車工業会(自工会)で次世代モビリティ領域長を務める田中正実氏はJMSのコンセプトを念頭に、「自動車が提供する価値は移動に限らなくなっている。ステークホルダーの皆で考えることでサービス、モビリティへの期待、生活にもたらす価値を新たに生む機会にしたい」と述べる。

JMSの狙いと自動車業界の現状を語る田中氏

実際、今回のJMSはこれを如実に示していた。モビリティが組み込まれた近未来を示す「フューチャー」、モビリティがもたらす価値、文化を再認識する「カルチャー」、スタートアップを含めた様々な業種との連携を促す「クリエーション」の3つのプログラムを柱とした。「フューチャー」は、2035年にモビリティがもたらすだろう変化を様々な出展を通じて来場者に体験してもらう「Tokyo Future Tour(トーキョー・フューチャー・ツアー) 2035」を目玉とした。「空飛ぶクルマ」といったモビリティだけでなく、携帯電話キャリアによる将来の通信インフラなども展示された。このほか、街中での移動の変化や自然との共生の在り方など、我々の生活を巡る近未来を実感できる内容を盛り込んだ。田中氏は「来場者に『自分だったらモビリティをこう作る、こう使う』という現実的な考えを持ってもらい、次世代のモビリティ社会を『自分ごと化』しやすい世界として提案した」と語る。

スタートアップも技術を披露 業界発展のシーズに

日本の基幹産業である自動車業界はグローバルで見ると、安価なEVやAIが自律的に状況を判断するE2E(End to End)を駆使した自動運転を商用化した米中勢の攻勢を受けている。自工会はJMSで鮮明にしたように、デジタル・イノベーションの総合展「CEATEC(シーテック)」などを含めた他業種とも対話し、業界の枠組みを超えた新たなクルマ作りを模索している。

モビリティに関連するスタートアップが集結したStartup Future Factory

TMSからJMSへの変化を示す目玉が、柱の一つである「クリエーション」だ。SDV時代の到来を見据えると、既存の自動車産業や企業の大小を問わず「スタートアップの柔軟なアイデアを取り込まないと欧米に勝つことはできない」(田中氏)との危機意識から、次世代技術の種(シーズ)を紹介する専門エリアが設けられた。このうち、展示ブースが集まる「エキシビションストリート」には、スタートアップなど延べ129社が参加し、リニアモーターによる自動物流道路やロボットを通じたバリアフリーといった革新的なサービスが来場者の関心を集めていた。

このうち、スタートアップの一社である「ティーティス」は、「ドラレコ(ドライブレコーダー)あとづけAI」を展開している。トラックなどに設置したドラレコを通じてドライバーに示した数千~数万の危険行為をクラウド上のAIが判断するもので、物流会社側に最適な人員配置や指導といった安全管理の効率化をもたらす。実績として、1万台以上の輸送車両に設置した大手物流企業は事故を26%削減したほか、安全管理にかかる人件費を年約2億円カットしたという企業側の課題解決に向けたニーズにも応える一例と言える。高頭博志CEOは「スタートアップにとって、技術をいかすことのできる他企業との連携の枠組みが必要だと思っている」と訴えた。

AIを通じた運送業の業務管理を提案するティーティスの高頭氏

業界の枠組み越えたビジネスマッチング加速

JMSは前身のTMSから2年に1度開催されてきた。ただ、自動運転をはじめとするモビリティDXの世界は、他のデジタル産業が歩んできたように日進月歩の変化を遂げており、迅速に対応できなければ日本の競争力低下を招く。こうした中で、自動車産業の活性化に向けた機運を途切れさせないために2024年に実施されたのが、JMSの関連イベントである「ビズウィーク」だ。スタートアップと自動車産業の連携を加速させる事業の一環で、145のスタートアップ企業、58の事業会社が出展。JMSが一般向けであるのに対し、ビズウィークはビジネスマッチングを柱にしており、会場中央の商談エリアでは担当者同士の交渉が活発に行われた。自工会はイベント閉幕後も継続して利用できるビジネスマッチングのためのプラットフォーム「Meet-up Box」も設置し、業界の枠を越えた共創を生んでいる。これまで登録者は2,000人を超え、累計で約900件の商談が実施された。

田中氏はビズウィークについて、「自工会の理事会で『我々も元はスタートアップだった』という声が出たのを機に決まった。大企業の経験、人材、世界的なネットワークとスタートアップの斬新なアイデアを組み合わせて、自動車業界だけでなく日本経済の活性化につなげる」と説明する。JMSは2年に1度の祭典にとどまらず、業種や企業規模を問わない共創の動きを加速させる「ハブ」の役割を担うようになっている。

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