【Vol.04】自動運転AIチャレンジで垣間見えるSDV時代の自動車業界㊤ E2Eによる覇権競争 世界で激化

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2025.12.26
自動運転の開発が進む自動車業界でも近年、AIを活用しようという動きが活発化している。特に注目されているのが、AIがカメラで捉えた車両の周辺情報を認知し、適した運転経路を判断して走行、制御するまでを担う「End to End(エンド・トゥ・エンド、E2E)」だ。米テスラや中国メーカーが商用化しており、普及してデータがさらに充実すれば、「レベル4」の実装が加速する。経済産業省も2025年にアップデートした「モビリティDX戦略」で、自動運転に関するAIの技術開発を進める重要性を強調している。自動運転を巡る覇権競争が激しくなる中、日本としてSDV(Software Defined Vehicle、ソフトウェアで定義される車)時代を見据えたAI活用をどう考えるべきか、実装するための人材をどう確保するか。自動運転の関心を広げるために毎年実施されている「自動運転AIチャレンジ」に、これらの問いに対する一つのヒントがあった。

学生チームが最速タイムで優勝の波乱

東京・お台場にある1周約400mのカートレース場「シティサーキット東京ベイ」で2025年10月25、26日、「自動運転AIチャレンジ2025」の決勝が行われた。時折激しい雨に見舞われる厳しい路面コンディションの中で走行していたのは、AIで制御された無人のカートだ。参加チームは学生や自動車エンジニアら計15チームで、レース前に設定した経路に沿って無人カートを走行させて速さを競う。ところが、実際のカーブや濡れた路面は事前のシミュレーションとは異なる挙動になりやすく、スピンが発生。レース中にスピードやカーブの入り方を路面状況などに合わせて微調整する認識力と判断力、それらを素早く実施するスキルがタイムを左右した。

無人カートの走行状況を示すモニター

全チーム最速で最優秀賞を得たのは、「学生クラス」で出場した慶応大学理工学部の学生3人だ。予選の動画を分析して抽出した課題を深夜まで調整した結果、1週46.032秒という2位の「一般クラス」の社会人チーム(46.813秒)を上回るタイムを叩き出した。2年の苗加祐貴さん(20)は、「参加のきっかけは『おもしろそうだから』という単純な理由だった。それ以来、仲間と6か月間、ずっとやってきた」と振り返る。将来については「今のところは特定のジャンルに絞っていない」としつつも、仲間と共に自動運転への関心を高めたようだった。

決勝から約1か月半後の12月12日には、東京・千代田区の九段会館で改めて表彰式が開催された。大会実行委員会の波多野邦道委員長は「大会をアップデートして仲間を増やしていきたい」と意気込みを語り、次いで挨拶した経済産業省の田中一成・大臣官房審議官は自動車産業の不透明さを示した上で、「これからも課題にチャレンジし続け、自分や日本の将来を輝かせてもらいたい」とエールを送った。慶大チームをはじめ受賞者が表彰状などを手渡されると、会場は祝福ムードに包まれた。

最優秀賞となった慶大チームのメンバー(右)と波多野委員長

自動運転AIチャレンジは「公益社団法人自動車技術会」が主催しており、2025年で7年目を迎える。自動運転の技術者を見出す目的で始めたものの、センサーで障害物を避けるなど当事者でも難しい課題が設けられていたことから、参加者は頭打ちの状態だった。このままでは人材のシーズ(種)があまり芽生えないということで、2024年から事前に与えられるシミュレーターでの自動運転と実車のレースに改め、学生でも参加しやすいようにした。単一種目の大会で比較すると、2021年の233人から2024年は397人、2025年は584人に拡大した。大会事務局は「自動運転の裾野が広がる契機になるかもしれない」と手ごたえを感じている。

政府もE2E開発に危機感 国家戦略に盛り込む

自動運転に対応できるAIをはじめとしたデジタル人材の確保が主目的であるこの大会は、ここに来て重要度を増している。自動運転でAIをいかに進化させて活用するかが実際の国際的な自動車業界のトレンドになっており、日本の自動車業界の競争力を左右するとの見方が強まっているためだ。経済産業省も2025年6月にアップデートした「モビリティDX戦略」で、「安全かつ広範囲な自動運転の実走に向けたAI」を重点テーマに掲げている。

日本の自動車業界はこれまで、主に「ルールベース」の自動運転モデルを進めてきた。自動車に関する交通、運転のルールをエンジニアが機能(モジュール)ごとにプログラムで設定。センサー、高精度の3D地図などを通じて自動車側が把握した情報とルールを照合して走行する。ただ、現実では、狭い道路での路上駐車の回避や夜間での野生動物の飛び出しといった事前の想定が難しい状況もあり、それらを全て網羅してエンジニアが事前にプログラミングするのは、限界がある。ルールベースでは複雑な条件下での「レベル4」が難しいと言われるゆえんだ。

一方で近年、世界中で開発競争が激化しているのが「E2E」という技術。状況認識から運転経路の判断まで、全てを単一のAIで実施する技術である。

人間による通常の運転は、人影など周辺から得る情報で危険か否かを類推・判断し、ルールを著しく逸脱しない範囲で柔軟に対応する。E2EはこれをAIが担うという概念であり、膨大な学習データが整えば、ルールベースでは扱いきれなかったイレギュラーな状況に対しても、人間のように運転できるようになりうる。メーカー側としても、ルールを設定する膨大な作業のコストを低減できるメリットがある。

※上記のルールベースとE2Eの表は経産省資料より抜粋

世界的には米テスラが2024年、AIを用いたE2Eの自動運転機能を実装し、中国は巨大IT企業のファーウェイが中国自動車メーカーに対し、AIベースのADAS(先進運転支援システム)を供給し始めた。欧州でも開発が熱を帯びているほか、日本でも「株式会社ティアフォー」や「チューリング株式会社」といったスタートアップなどによるE2Eの開発が進んでいる。

ルールベースもE2Eも現状では一長一短

E2Eは、自動運転で優位に立っているとは現時点で必ずしも言えない。まずはインフラとして、大規模なデータ収集を担う人材や高性能のGPU(画像処理装置)などの計算資源が求められる。万が一の事故が起きたとしても、AI判断は客観的に分析できない「ブラックボックス」のため、原因の究明が難しく、直ちに安全・安心につなげられない懸念がある。

とはいえ、将来的にAIが的確に判断できるだけのデータを得てE2Eの性能を上げきることができれば、そして、E2Eの安全性を評価できるようになれば、E2Eによる「レベル4」普及も現実味を帯びてくる。海外市場への展開を考慮すると、国内メーカーもE2Eに本腰を入れなければ、国際競争力やシェアの低下を招きかねない。自動運転AIチャレンジをはじめ、自動車業界にデジタル人材を呼び込む試みが本格化しているのは、こうした背景がある。

若きエンジニア「運転する楽しさと危険回避を両立したい」

今回の大会には参加した「三菱電機ソフトウェア株式会社」の林央輝さん(26)は参加の理由についてこう語った。「シンプルに自動車が好きで業界に入った。運転する楽しさを残しながらも、危険回避のサポートを両立できるような自動運転車を追求したい」。林さんのように自動車の魅力を分かち合いたい若者が広がれば、自動車業界という既存の枠組みを超えた多様な人材の集まる素地となる。

最速タイムを出した慶大チーム(左3人)と三菱電機ソフトウェアのチーム(右4人)

自動運転とAIに関して、次回は自動運転に関わるホンダのキーパーソンのインタビューを掲載する。

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