【Vol.05】自動運転AIチャレンジで垣間見えるSDV時代の自動車業界㊦ デジタル化を進めるホンダのキーパーソンに聞く

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2025.12.26
自動運転にAIが本格的に活用される時代に入る中、「自動運転AIチャレンジ」が実施される意義付けや大会を通じて期待されることは何か。業界における自動運転の展望も含めて、共にホンダで先端技術を担う自動運転AIチャレンジ実行委員長の波多野邦道氏と大会委員の山本一哉氏にそれぞれ話を聞いた。

自動運転AIチャレンジ実行委員会委員長 波多野邦道氏(本田技研工業株式会社エグゼクティブチーフエンジニア)

この大会は実際のクルマを走らせて様々な課題に直面し、試行錯誤するものづくりの「リアル」を実感できる。ICT(情報通信技術)人材が自動車業種に興味を持ってもらえない傾向のある現状で、学生や現役エンジニアを幅広く募ってスキルアップにつなげてもらうと共に、業界に関心を持ってもらう機会になればと思っている。

今回の大会の特徴として、学生チームは自動運転を実行するコード(プログラム)を打ち込むのではなく、経路設定などにAIを積極活用していた。つまり、これから社会に出る学生にとっては、プログラミングの技術以上に、「何を実現したいのか」を真剣に考えることが重要になっていると感じた。一方で、エンジニアはAIが用意した手段が本当に正しいか、学生が持っていない知見を駆使して見極める力が求められると言える。

自動車業界は「ヒエラルキー」から「ミックス」の構造に

自動車を含めたインダストリー全体がかつての盛り上がりを欠いて人材が集まらず、さらに盛り上がらない状況に陥るのは、日本産業の危機といえる。自動車業界を見ると、かつては産業構造のトップであるOEM(完成車メーカー)がサプライヤーに対し、需要に応じた製品を作るよう求めてきた。販売店で顧客ニーズを直に把握することが主な仕事の一つであるOEMだからこそ可能な「上位要求」が、機能していたと言える。それが自動車でICTが極めて重要な時代になり、通用しなくなっている。サプライヤーもICTを通じて消費者のニーズを製品に反映できるようになったためだ。業界の構造はヒエラルキーではなく、OEMもサプライヤーもミックスされた状況になりつつある。

自動車業界は顧客の生命と財産を守ることも重要な仕事として、長年にわたり「製品保証作業」のノウハウを積み上げてきた。先端技術を駆使するのとは別の視点で培ってきた業界の強みであり、そこはAIはじめ新規参入の業界が簡単に追いつくことはできないだろう。ただ、このままで良いという訳ではない。膨大なデータを学習したAIがいずれカバーする領域になりうる。

自動運転の現状に関して、エンジニアが事前に自動車に関する法規などを設定する「ルールベース」とAIが周辺状況の認知から運転、制御までカバーする「E2E」は長所、短所がそれぞれあり、どちらが適しているか直ちに判断できるものではない。例えば、安全性は業界が培ったノウハウが生かせるルールベースが現状で優位だが、「狭い道路の路上駐車を避けるために追い越し禁止車線をまたぐ」という事前設定にはない事態が苦手だ。ただし、E2Eも全くの未見の事態には対応できず、たとえ膨大なデータから「安全だろう」と判断しても、人間が運転するのと同様に絶対ではない。

実現したことに合わせた技術の活用が重要

双方は自動運転に対する方法論の違いに過ぎない。実現したいこと、守りたいことに応じて適切な技術手段を検討していくことが必要。自動運転やSDVに向け、デジタルをはじめとする他産業を巻き込み、連携しなくてはならない時代になった。

自動車は常にリアル、物理を伴う複雑な機械機構を持つハードだ。これをAI含めたデジタル技術でコントロールし、顧客ニーズに合わせてアップデートする。最先端のソフトとハードを連携させることで、人々の生活と社会を変えることができる。ICT人材にとっても、非常にダイナミックで魅力的な仕事だ。

自動運転AIチャレンジ実行委員会委員 山本一哉氏(本田技研工業株式会社チーフエンジニア)

モビリティーのデジタル化において、日本は欧米、中国に比べやや遅れている。特にSDVは海外勢と渡り合うだけのスピード感のある開発と、ユーザーのニーズに即した定期的なソフトウェアのアップデートが必要だ。今後もグローバルに事業を展開し続けるためには、ソフトを扱える人材の確保が急務といえる。ただ、日本の自動車業界にはなかなか集まってこない。絶対数の少なさが大きな課題となっている。

業界を挙げての解決策の一環が「自動運転AIチャレンジ」と言える。今後の自動運転やSDVを担う学生が自動車業界に魅力を感じてもらう機会になればと期待している。これまでは例えば、センサー搭載の自動運転ゴルフカートが障害物を避けるなどの課題をクリアする大会だったが、専門性の点で特に学生が参加するハードルが高すぎた。そこで人工衛星が位置を特定する「GNSS」(GPSはその一つ)のセンサーのみを使ってコースの経路を設定する初心者でも参加しやすいルールにした。その結果、高校生を含めた学生の参加も増えており、裾野の広がりを実感している。

今後の大会は、高度な技術を持つ人材が集まるE2Eを使った競技の創設を検討している。ルールベースとE2Eのどちらが主流になるかは分からないが、技術の進化や膨大なデータが蓄積されうる将来を考えると、E2Eを今から見据える必要があるためだ。

ICTで未来のリアル社会を創出する業界に

E2Eは特に自動車が必須の移動手段である地方でのニーズが高い。高齢化が進む中、運転せずに病院やスーパーに自由に短時間で行けるようになれば、地域の活性化にもつながる。現状では安心感から消費者ニーズに合っているというルールベースの利点をどう生かすかも、今後の自動運転の開発のうえで重要になる。

自動車のデジタル化は業界での働きがいをさらに高める。地方の高齢化は日本以外のアジア諸国でも深刻な社会課題になっている。自動車業界はそれらを解決して社会を変えられるポテンシャルが非常に高い。次代を担う若者たちには、「自動車業界で未来を自分たちで作ろう」と呼びかけたい。

決勝後には参加者や大会関係者らが一堂に集まった

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