【Vol.09】SDVの開発を飛躍的に高めるカギは「API標準」 アプリとソフトの連携機能を共通化し、テストまでを迅速化
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コード5億行、サプライチェーン・・・SDVシフトへの課題山積
SDVの開発は米国や中国を始め、世界的に加速している。こうした中で競争力を維持するには、車両の機能を最適化するアーキテクチャ(仕組み)の刷新と開発に加え、SDVの機能を更新、強化、追加するためのサービスの実装を、どうスピードアップするかにかかる。これに向けて期待されているのが、「API標準化」だ。
SDVに関わらず近年のクルマは、デジタル化(DX)によって車載ソフトウェアが極めて重要になっており、開発にかかるコード数(プログラムの行数)が激増している。例えば最近販売された海外企業の車両の場合、5億行であり、2030年までには6億行に達するとの予測もある。様々なソフトウェアが重要なSDV時代に向けて、個々の企業にいるエンジニアが全てを担って入力するのでは、どうしても迅速化できない。
こうした課題に対し、上記のようにAPIを標準化することによって、SDVに関わるソフトウェア、アプリを各社が独自に開発することなく汎用的な範囲で利用でき、クルマの開発スピードは飛躍的に高まる。さらには、クルマの価値を更新し続けるアプリに強みを持つと想定されるサードパーティーの参入も容易になる。そうすれば、各OEMは独自の知見をいかした他社や他車両との差別化に集中でき、SDV時代においても、日本の自動車業界が国際競争力を維持することにつながる。
中核を担うJASPARとOSDVIの役割とは
日系メーカーのSDV世界シェア3割の目標を掲げる経済産業省の「モビリティDX戦略」でも、API標準を重要な要素と捉えている。担う主な国内団体は、2004年9月に車載ソフトウェアやネットワークなどの標準化、共通化を目的に設立し、現在はトヨタ自動車、本田技研協業(ホンダ)、日産自動車など自動車業界を中心に約250社が参加する「JASPAR(Japan Automotive Software Platform and Architecture)」と、SDVのAPI策定のためにIT企業を含む約60社が参画するプロジェクト「Open SDV Initiative」(以下OSDVI)だ。
JASPARは標準化を議論する様々なワーキング・グループ(WG)があり、2025年2月にAPI技術WGが加わった。主に部品や走行、異常な挙動、空調の制御といったクルマの基本機能に関わる「ボディ系」を担い、開発コストを抑え、機能を常に強化できるSDVの実現を目指している。名古屋大学の呼びかけで発足したOSDVIは、サードパーティーがアプリを開発・提供することに重点を置いて、API策定を進める。人々の生活とクルマを融合させる、つまり移動にとどまらない新たなサービスや価値の創出を目標としており、そのためにはサードパーティーの参入が重要となる。モビリティDX戦略では、「それぞれの団体で策定される標準仕様について有用性の検証を行う」とし、産官学をあげて日本のSDV開発を底上げするという方針が示されている。
エアコン領域で成果 自動車業界は「競争」から「協調」
API標準に向けて、自動車業界などはどう連携し、どう動いているのか。JASPAR運営委員長で日産自動車ソフトウェア開発部エキスパートリーダーを務める井野淳介氏は「SDVの開発は通信、セキュリティー、安全、それらに関わるAPIなど多岐にわたる分野に対してスピード感を持って取り組む必要があり、各社は独自にやることが難しいと既に認識している。それと、JASPARのWGがそれぞれ得意とする技術領域で取り組んできた実績が結びつき、『競争』を超えて『協調』しようという機運がこれまで以上に高まっている」と解説する。つまり、今は各社で「競争」しているものの、将来的には汎用的になると予測される領域を見極め、「協調」するという動きだ。
APIのWGは幹事企業を中心に標準化するための実証実験を試みている。既に一定の成果が出ており、エアコン領域では、3社共通の完成品に近いアプリを作成。日産自動車が台上シミュレータ、トヨタ自動車や本田技研工業(ホンダ)が自社車両で検証し、動作を短期間で確認した。エアコンは車両によって操作方法は異なるものの、車内温度の検知や風力の制御、それに応じて窓を閉めるといった基本部分は同じであり、そこを標準化するという試みだった。実装されると、各メーカーは基本部分に関わるアプリ開発からテストまでを省け、大幅なコスト低減と開発スピードの向上を図ることができる。
今後はエアコンをはじめとする非競争分野にとどまらず、「走る、曲がる、止まる」といったクルマの安全に関わるハードウェアを制御するAPIをどう標準化するかが課題となる。それを基に各OEMをはじめとする自動車関連企業が持つ知見を駆使してカスタマイズし、安全に関わるAPIが確立すれば、ソフトウェアに強みを持つ外部企業の参入障壁が下がる。延いては日系メーカーのSDVの開発迅速化、そして競争力強化につながることが期待される。WGは体制の強化に向けて、設計から実装・テストまでを短いスパンで繰り返す「アジャイル型」にする方針だ。
競争力の維持と強化 「国際標準化」がカギに
日系メーカーによるSDVの競争力強化には、これらのAPIを国際標準化することが重要となる。日本がSDVの根幹であるソフトウェア領域で主導権を握れる可能性が高まるためだ。井野氏は「まずは国内で標準化することが大切。それを踏まえた上で、JAMA(日本自動車工業会)やJSAE(自動車技術会)といった国内の自動車団体と連携して国際標準化を目指す」と話す。具体的には、JAMAが業界全体の方針づくり、JASPARがAPIを含めた各技術の深掘り、J-Auto-ISAC(アイザック)がサイバーセキュリティー、JSAEが標準(規格)づくりをそれぞれ担っている。2026年3月時点では、製品・サービスといった幅広い分野が対象の「ISO(International Organization for Standardization)」や、自動車ソフトウェアに特化した「AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)」で、無線通信(OTA)に関わる要件などの標準化に向けた実績を収めている。
日本の自動車業界が今後も基幹産業であり続け、日本経済に貢献するためには、各OEMをはじめとする自動車業界と他業界が連携をより深め、SDV時代のスピードに対応できるようにすることが重要になる。井野氏も「各省庁と業界の枠を超え、産官学が一丸となって取り組む体制が一段と必要になる」と訴えている。